研究の必然性

イノベーションはマネジメント可能なものか。この設問は単純でありながら未だに議論の収斂していない、古くて新しい課題である。

企業がイノベーションを起こす経路には、単なる「偶然」ないしは「幸運」と認識されるものから、「意図された幸運」、すなわちセレンディピティと呼ばれるものまでの幅がある。言葉の定義上、人間は「幸運」をマネージすることはできない。しかしながら、ある種の工夫が組織的に遂行されるとき、「幸運」の発生確率が高くなることも、また知られている。

シュンペーター、ドラッカー、フォン・ヒッペル、クリステンセンら、欧米の研究者によるイノベーション研究は、イノベーションと企業組織との関連を明らかにしてきた。創造的破壊と新結合という概念の定義、イノベーション・プロセスの体系化、顧客の創造するイノベーション、持続的イノベーションと破壊的イノベーションの相互作用などが、これらの研究者によって提起されてきた命題である。

日本経済の現実を理論的に照射し、綿密なフィールド調査によってその現実から新たな理論を抽出するという試みは、日本で活動する社会科学者の責務である。イノベーションに関わる数多くの魅力的な研究テーマはすでに内外の研究者から提起されている。それらの魅力的な研究テーマのうちから、わずかな例をあげると以下のとおりである。

  1. 起業プロセスにおける産学官連携の役割。
  2. 起業とほぼ同時に国際的なリンケージを形成する経営戦略の存在。
  3. 環境規制の下における新製品開発及び新製造プロセスの開発。
  4. サービス産業における個別需要への対応とサービスの質の標準化。
  5. 設計開発のプロセスにおける大規模組織化とモジュール化の進展。

イノベーションの歴史、政策、統計、理論の探求は、社会経済発展のエンジンのメカニズムと耐性を理解する上で必須の研究領域である。経済学、社会学、心理学、工学を含む広範な経営学的英知を結集させることによって新たな研究テーマへの創造的な解を模索することが期待される。